+++ さがしもの +++
私立祠堂学院高等学校3年C組は今四時間目の授業中、グラマーの小テストの真っ最中である。カリカリと文字を書き綴る音が響く中、三洲新は一人イライラと使い慣れないシャープペンシルをカチカチとノックしていた。
―――書きにくい。普段使い慣れない筆記具がこんなに使いにくいとは思わなかった。シャープペンの太さなんてどれもさして変わりないはずなのに、違ったとしてもほんの数ミリのはずなのに、手に持ってみればすごい違和感。
芯に至ってはいつもと同じUniのHB0.5ミリを使っているのに、なんでこんなに折れやすいんだ! まあたぶんグリップの違いによる微妙な力加減がそうさせているのだとは想像出来るが。
こんな些細なことにイライラさせられているかと思うと余計に腹が立つ。
探しに行く。昼休みになったら絶対に探しに行くぞ!
そんな不利な(?)状況下でも三洲はきっちりと答案用紙を埋めて昼休みを告げるチャイムと共に教室を出て行った。
昨日の行動を反芻する。
最後の授業までは使っていた記憶があるんだからなくなったのはその後だ。
まずは部屋に帰って荷物を置いた。
但しその時ペンケースは生徒会関係の書類と一緒に持って出たはずだ。
ということは部屋ではないな。
次。生徒会室に向かった。
途中数人と立ち話をしたがペンを出してメモを取るようなことはなかった。
ああ、でも立ち話が長引いて会議に遅れそうになったんだ。
あ…嫌なことを思い出したぞ。急ぎ足で廊下の角を曲がろうとした時、出会い頭に崎と、よりによって崎と、正面衝突したんだ。
尻もちはなんとか免れた…崎が咄嗟に俺の手を掴んで引き寄せたからぶざまに転ばなくて済んだ訳だが、崎に助けられるのと尻もちとどっちが恥かって言ったら…いや、それは今は関係ない。
ああ、余計なことまで思い出して本当にイライラする!
それでその時手に持っていた荷物を全部ばら撒いてしまったんだった。
でも、カンのペンケースならそこで中身まで散乱するかも知れないが、俺のペンケースは皮製なんだ。落ちたからって勝手にファスナーが開いてペンが飛び出る訳はない。
現に崎が拾って手渡してくれた記憶がある。
とは言っても万が一ってこともある。まずはあのあたりを探してみるか。
昼食に向かう為の大移動が起こっている廊下を足早に行き過ぎ、例の角まで来て歩を緩める。辺りを見回したがやっぱり落ちているはずがない。
次は生徒会室だ。ガラリと引き戸を開けるとそこは無人だった。…当たり前だ。今は行事の合間の珍しく暇な時期。そんな時にわざわざ昼休みを返上してまで仕事をするような物好きはいない。
昨日の会議は、会議室ではなくここを使って行う少人数の打ち合わせみたいなものだったから、俺はいつものように会長席に座っていた。
打ち合わせの間はずっとあのシャープペンでメモを取っていた。
予想通り比較的短い時間で打ち合わせが済んで帰り支度をしようとした時、野沢が来て新しく買う楽器の予算について話がしたいと顧問のいる音楽室まで連れて行かれたんだ。
…その後約束があったのに。
それで俺はシャープペンを胸ポケットに差してここを出た。
音楽室ではどうだったか。準備室に通されて、コーヒーを勧められて世間話をした。
結局肝心な予算の話をしたのはほんのわずかだった。
メモを取るような用件は何もなかった。
俺は時間が気になって途中で何度も腕時計を見た。
ブラスバンドの顧問からやっとのことで開放された俺は急いで生徒会室に戻った。
約束の時間を30分も過ぎていた。
もう誰もいないだろうと思って開けた扉の向こうには、新たな来客が副会長の大路と共に首を長くして俺の帰りを待っていた。
図書委員だ。本棚に入り切らない本の為に、仮設のキャビネットを買いたいけど予算が足りないからどうにかしてくれという用件だった。
全くどいつもこいつも予算予算言いやがって頭が痛くなる。
早く話を終わらせたくて『それは本当に必要なのか? 余分なことに使う金はない』と言ってしまったら、じゃあ現状を見て下さい、と。
俺としたことがやぶへびだった。もしかして少し慌てていたのかも知れない。
そしてそのまま図書室に連行されてしまった。
そこで本好きに多い討論が好きそうな委員が、やたら難しい単語を並べながら今はそんなことまで話す必要ないだろう、ということまで懇切丁寧に説明してくれたおかげで随分時間をくってしまった。
その件については検討する、ということで図書室を後にした時には更に30分が経過していた。
そう言えばその時、学生手帳の隅に何か書いたな。いや、正確には書くふりをした、だ。
あの図書委員があまりにも熱心だから自分の立場としてはそうせざるを得なかったのだ。
あの時ペンをどうしただろう。そのまままた胸ポケットに差した気がするが。記憶があいまいだ。…図書室に行ってみるか。
図書室に入ると、早々と食事を終えたらしい数人の生徒が本を読んだり予習をしたりしていた。当番の図書委員もカウンターの席で熱心に読書している。
「ちょっといいかな」
本に熱中して俺が来たことに気付かない図書委員に声をかける。
「あっ! 三洲先輩! 昨日はわざわざありがとうございました!」
おいおい、図書室では静粛に、がお約束だろう。
当の図書委員がそんなにデカイ声出してどうするんだよ。
案の定そこにいた全員の視線がこちらに集まる。生徒会長が何しに来たんだという表情で。
悪いな、今はプライベートだ、とでも言ってやりたくなるよ。それでも俺はにっこり笑って
「いやいいよ、仕事なんだから。それより昨日ここで忘れ物をしたかも知れないんだけど」本題を切り出した。
「何を忘れたんですか?」
「青いシャープペンなんだけど、なかったかな?」
「ああ、それなら…」
図書委員がカウンターの引き出しから何かを取り出そうとする。
…なんだ、ここだったのか。ポケットに差したつもりで落としたかな、と思ったのも束の間、
「これ、みんな忘れて行くからいつの間にかこんなに溜まっちゃって…」
そう言って渡されたものは、100円ショップで売っているようなプラスチックのケースに入ったシャープペンの山だった…。
いったい何本あるんだよ!? 優に50本は超えている気がする。頭がクラクラして来た。
でも、もしかしたらこの中にあるかも知れない。
俺は礼を言ってその山を青いシャープペン目指して掻き分ける。が、そこに目当てのものは見つからなかった。
「ないみたいだな。手間を取らせて悪かったね」
「あ、だったらこれ、持って行ってください! どうせ誰も取りに来ないし」
何故だか嬉しそうに山の中から一本取り出して俺に差し出す。俺は呆然と、彼の手を見つめてしまった。
「いや、いいよ。ありがとう」
「あ、そうですよね。三洲先輩がこんな安っぽいの使う訳ないですよね」
恥ずかしそうに手を引っ込めた彼に「そんなことはないよ」と言って微笑んで見せた。
いったい俺ならどんなものを使ってると思ってるんだ。俺のペンだってほんの安物だよ。100円、いや、一応クリップが付いてるから200円か300円はするかも知れないけど、まあとにかくそんなものだ。値段がわかないのは、俺が買ったものじゃないから…。
さて。ここにもないとなると次はどこだ?
図書室から生徒会室に戻って、また誰かいるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしながら扉を開けると、さすがに無人だった。
それでやっとホッとして荷物をまとめて出ようとすると、信じられないことにまたノックの音が響いた。
嘘だろ? と思いつつ、仕方なしに応対すると今度はサッカー部の部員が数人、やけに汚れた姿で立っていた。
なんでも下級生が上級生を殴ったとかで大勢が止めに入って、結局大乱闘になったらしい。
でもこれは俺の仕事じゃない。風紀の管轄だから風紀委員に伝えるように、と言ったところに丁度赤池が通りかかった。
助かった。一緒に探してくれとでも言われたらどうしようかと思ったよ。
だが。あろうことか赤池は、大問題に発展しそうだから生徒会長である俺にも同席しろと言い出した。そう言われて断れる訳がない。
俺はその時点で今日の約束を諦めた。―――久しぶりだったのにな。すっぽかして悪いな、真行寺…。
サッカー部の揉め事は意外に根が深く、以前から下級生いじめがあっただの、下級生が部室の掃除をしないだの、たまたま出張で留守にしていた顧問が帰って来るまで延々二時間、お互いの噛み合わない言い分を聞かされるはめになった。
顧問が戻って来てやっと、やっとその場から開放された俺は、今度こそ生徒会室の扉を開けて外に出た。
と、暗くなった廊下の向こうから陸上部のユニフォームを来た生徒が一人走って来た。
「三洲先輩! 部室の鍵がなくなったんです! みんな中に荷物入れたままでこれじゃ宿題も出来ません。どうしましょう?!」
俺はその場に座り込みたい気分だった。もう勝手にしてくれ! と言う訳にもいかず、部室の鍵から教室の鍵まで全てが揃っている島田御大の部屋まで足を運んだのだった。
さすがに疲れた。寮に帰る道すがら待ち合わせの場所に寄ってみたが、もちろん真行寺の姿はなく。当たり前だ。もう三時間も遅刻だからな。
せっかく珍しく剣道部が休みだったのに。俺の仕事も早く片付くはずだったのに…。
あれ? やっぱり記憶にあるシャープペンは図書室が最後だ。
ということはその後の生徒会室で落としたのだろうか。
もう一度生徒会室に戻って、誰もいないのをいいことに机の下からソファの下まで探してみたが、結局青いシャープペンは見つからなかった。
昨日に引き続き疲れた。ああ、もう予鈴が鳴る時間だ。
あのペンのせいで昼食も食べ損ねた。ばかばかしい。どこにでもある普通の、特別デザインが良い訳でも、高い訳でもないシャープペン。
自分ではあんまり物には固執しないタイプだと思っていたのに。
それもこれもみんなあのバカ真行寺のせいなんだよ。何でもないシャープペンに意味を持たせるようなことするから…。
―――それは二年生になってすぐ、真行寺と再会して間もない頃だった。学食でひとり夕食を摂っていると真行寺が嬉しそうに近寄って来た。
「ここ、いいっすか?」
聞くと同時にトレイを俺の隣の席に置く。
「だめ」
「え、そんなあ。冷たいっすよ、アラタさん」
言いながらもう座っている真行寺を横目で睨む。
「その呼び方やめろよ」
「なんで? 昨日は何も言わなかったくせに…」
昨日…という言葉に思わずむせ返る。そう、昨日。初めて俺は真行寺にカラダを許した。
「大丈夫っすか?」
咳き込む俺を心配そうに覗き込む。やめてくれ。昨日の今日で、さすがの俺でも恥ずかしいんだよ。
「俺のことはいいから、お前も食べたらいいだろ」
「はい、いただきまーす、っと」
いつも元気で明るい真行寺。そのルックスとスタイルからは想像できない気さくさと奔放さに俺は戸惑っていた。
なんでああもあっさりと関係を持ってしまったのか。…自分でもわからない。
真行寺がクラスメイトのこと、部活のこと、好きなテレビ番組のことなんかをとりとめもなく話すのを聞きながら、この先どうなるのかな…なんて暢気に考えていた。
そろそろ席を立とうという時、もう学食も閉まろうかという時間になって生徒会長の広田先輩が慌しく入って来た。
一年の時ずっと生徒会室に入り浸っていた俺はわりと親しくしてもらっている。その広田先輩が俺を見つけると、
「三洲、ちょっと頼まれてくれよ。急ぎの用なんだ。何か書くもんないか?」
自分の学生手帳の一枚を千切ってテーブルに置きペンを探す。
すると真行寺が「あ、これでいいっすか?」と言って胸のポケットにささった青いシャープペンをよこした。
「言った通りに書いてくれ」
俺は言われるままに二、三の言葉を書いた。意味は全くわかない。
「それ、柴田探して渡してくれ。これでオッケーだからって」
柴田先輩絡み、ということは風紀上ヤバイことがあったな。
「はい、わかりました」
「悪いな、突然。じゃあ急ぐから」
来た時と同様広田先輩は慌しく学食を出て行った。俺は頼まれた用を済ませるべく、急いで席を立った。その後を真行寺が付いて来る。
「アラタさん、生徒会長と仲いいんすね」
「別に仲良いという程ではないけど。去年もなんだかんだと雑用をさせられてたからな」
「へえ、そうなんだ。じゃあ次はアラタさんが生徒会長だったりして」
「そのつもりだよ」
「え? ほんとに?」
真行寺が目を丸くする。でも少し、迷ってるんだ、今は。
「そんなことより真行寺。そのシャープペン、書きやすいな」
俺はその話題を避けるようにどうでもいいことを口にした。
「そうでしょそうでしょ? 俺もこれ気に入ってるんすよ。中学の時から使ってるんすよ」
あんまり嬉しそうに言うから、つい意地悪したくなった。
「じゃあそれはもらっておくよ」
言いながら真行寺の胸ポケットにあったペンを取って自分のポケットに滑らせる。
「え…そんな…」
途端に情けない顔になった真行寺を見て思わず笑う。…こいつ、面白い。
「嘘だよ。ほら、返してやるから」
言いながらペンを渡すと
「や、いいっすよ、アラタさん。これあげます。いや、貰ってください。付き合い始めの記念です」
にっこり笑いながら俺の胸ポケットにそれをさした。
「は? 誰が付き合うって言ったよ」
「さあ…誰も言ってませんね。でも、今までよりアラタさんと親しくなったのは事実だから、じゃあお近付きの印です」
「なんだそれ?」
昨日の今日で、何でこんなに無邪気にしていられるんだ? でもこういう方が気が楽だな。変に思い悩まずに済む。
「変っすか?」
「わかったよ。これはもらっておく。それと…」
俺は真行寺の耳元で囁いた。「カラダだけなら付き合ってやってもいいぞ」
そんな俺の言葉に真行寺は見る見る真っ赤になって
「ハイッ! とりあえずそれで十分っす!」
元気に宣言した。
くるくる表情の変わる真行寺を見ながら、こいつとなら楽しくやっていけるかも知れないと、久しぶりに俺は明るい気持ちになったのだった。
それ以来、愛用していた青いシャープペン。諦めよう。きっとどこかで拾われたんだ。また似たようなのを買えばいいさ。ここまで執着する方がどうかしてるんだ。
昨日の放課後と今日の昼休みの疲れのせいで、さすがに何もやる気が起きない。俺はさっさと自分のノルマだけこなすと後を他の役員に任して270号室に戻った。
珍しく明るいうちに部屋に戻ったのだが葉山は不在だった。肉体的にも精神的にも疲れ切ってベッドにゴロンと横になる。
少しうとうとしたらしい。いつの間にか葉山が戻っていて、心配そうに俺を覗き込んでいた。
「ああ、葉山。戻ったんだ。今何時?」
「六時だよ。どうしたの? また具合悪くなった?」
「違うよ。たまたま時間が空いたからな。ちょっと気が抜けただけだよ」
笑って見せると、「ならいいんだけど」と言って葉山もホッとした表情を浮かべる。ああ、前科があるだけに心配性の葉山の前では転寝も出来やしないな、と心の中で苦笑する。
「それより腹が減ったな。昼を食べ損なったんだ。少し早いけど俺は学食に行くよ。葉山はどうする?」
「うん、行く。ぼくもおなかが空いて練習早めに切り上げたんだ」
早目の食事に早目の入浴で珍しく消灯まで時間が余った。
葉山はどこかに出掛けて行った。まあたぶん、上だろうけど。
こんな時に約束していれば、ゆっくり出来るのに。昨日だって消灯30分前になってやっと真行寺が現れて、宿題教えてくれなんて言うからろくな会話も出来ないまま…。
ん? 待て。宿題教える時に俺、あのシャープペンを使わなかったか?
そうだ。あいつがわからないと言った公式をノートに書いてやって…。
なんだ。それなら落としたのはこの部屋の中じゃないか。なんだか笑いがこみ上げてきた。
俺は自分の机の上を探した。…ない。じゃあ机の下か? …やっぱりない。転がってベッドの下に潜り込んだか?
床に這いつくばって、あまり人に見られたくないような格好をしていたその時。
「アラタさ〜ん。また宿題教えてくださ〜い!」
ノックの音と共に真行寺が入って来た。そして立ち尽くす。
「な、何やってんすか? そんなカッコして…」
「うるさいな。探し物をしてたんだよ」
「探し物? ベッドの下まで?」
「いいだろ、別に」
「いや、いいっすけどね」
ククッと笑いやがった。この野郎。俺だって好きであんな格好してた訳じゃないんだよ。
「宿題するんだろ?」
「はいっ! 今日は英語っす!」
「なんでもいいから早く出せよ」
早く済ませばその後時間があるかも知れないんだぞ? とは口に出しては言わないけど。
「は〜い。今日はヤケに積極的っすね。昨日はしぶしぶって感じだったのに」
「疲れてたんだよ」
「昨日は忙しかったんだもんね、アラタさん」
真行寺は昨日、約束をすっぽかしたことには何のクレームも付けなかった。
悪いとは思ってるんだよ。でもあともう少し。生徒会長の任期が終わればきっと少しは楽になるから。そうしたらもっと…。
「で? どこがわからないんだ?」
真行寺が俺の机の上で教科書とノートを広げてペンケースを開ける。
「あっ!」
「えっ?!」
真行寺がこれまた中学時代から愛用しているカンペンの中に、あんなに探しても見つからなかった青いシャープペンが、二本。
「これ…どうしてお前が持ってるんだよ。しかも二本も…」
「あ、それやっぱりアラタさんのでした? 今日開けたら二本になってたからきっと昨日の晩に間違って持って来ちゃったんだろうなーとは思ってたんすけど」
あっさりと、こんなに俺が探してたのに、随分あっさり言ってくれるな、真行寺。
「で? なんで二本あるんだ?」
「あ、それはっすねー、俺、それ元々気に入ってるって言ったじゃないっすか。だからわざわざ探して買ったんすよ。アラタさんとお・そ・ろ・い〜って、イテッ」
「ばかか」俺は頭を叩いてやった。
「叩かなくてもいいのに」
「昨日は使ってなかったじゃないか」
「だってアラタさん怒ると思ったから。実際今怒ってるし」
「別に怒ってない」
「あ、もしかして探してたのってこれっすか?」
「違うよ」と言ったのに、
「いいじゃないっすか、シャープペンの一本や二本。それともこれ、特別でした?」
そう言ってニヤリと笑う。わかって言ってるな、こいつ。俺は沸々と怒りがこみ上げてきた。
「別に特別でもなんでもないよ」
「へぇ。それなのにあんな這いつくばってまで探してたんすか?」
「お前…」
「それに。これ、わざわざ頭の消しゴム変えてあるし。別にこんな安物使い捨てでもいいのに」
「うるさい」
怒りと恥ずかしさで顔が赤くなるのがわかる。
「この替えの消しゴムって、中々サイズ合わなくて探すの大変なんだよね」
「黙れ」
「アラタさん、そこまでしてこのペン使ってくれてたんだ」
「いいから黙れっ!」
このおしゃべりな口を塞ぐには…。俺は真行寺の顎を掴むとグイっと引き寄せて噛み付くようにキスをした。
「ん…」
驚いて目を見開く真行寺。
「お前を黙らせるにはこれが一番だな」
冷ややかに笑ってみせる。
「…アラタさん、怒った?」
「当たり前だ」
そう言いつつも俺はベッドに腰を下ろして足を組む。早く来いよと目で誘いながら。
「アラタさん…」
「なんだよ」
「そっち、行ってもいい?」
「勝手にしろ」
言った途端、真行寺が俺を押し倒す。俺もあえて逆らうことはしない。優しいキスの雨がいくつもいくつも落ちてくる。閉じた瞳に、頬に首筋に。全身で真行寺を感じる。少しずつ、心が溶かされていく…。
「会いたかったよ、アラタさん…」
「昨日も会っただろ」
「そうじゃなくて…」
わかってるよ、そんなこと。
俺だって、昨日からのイライラがいつの間にか解消されてる。
激しくなったキスの中で、あぁこれじゃ宿題は消灯後だな、なんてぼんやり考えながら、俺も甘い空間へと堕ちて行った…
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