+++ 執行猶予 +++
たぶんずっと憧れていた
こうして過ごす穏やかな時間
会話なんかなくたって
甘い空気に満たされて
安らぎを求めた心に染み込んでいく
とても幸せなひととき
雑誌をめくるその指も
髪をかきあげる仕草も
俺に向けられる柔らかい眼差しも
なにもかもが愛しい
これらすべてを手放すには
俺の心はまだ弱すぎて
だからこれは猶予期間
別れを切り出す勇気を得る為の準備期間
ここで過ごした甘い夢の記憶さえあれば
きっと生きていけるから
執拗にカラダを求めなくなったのは
心が満たされているから?
でもだから、俺は求めてしまう
心の隙間を埋める為に
あいつの去ったこの部屋で
ひとり窓辺に佇んで
きらめく星にそっと願いを込める
あいつから離れるために
最後まで俺が俺でいられるように
もっと強い心をください…
そしてあいつがいつまでも
笑顔でいられますように…
novels top home